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東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)105号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 成立に争いのない甲第二号証(本件出願公告公報)によると、

本願発明は、「除草剤として活性を示す新規化合物、これら化合物を含有する新規な除草剤組成物、及びこれらの除草剤組成物で雑草を制御する新しい方法に関する。」ものであること(本件出願公告公報の発明の詳細な説明の項第三欄第三一行ないし第三四行)、

そして、「ある種のジフエニルエーテル類は効果的な雑草防除剤であることが示されている。しかし与えられたジフエニルエーテルの除草効果はエーテル中のフエニル環に結合した置換基の調査からは予想できず、又屡々全く密接な関連化合物が全く異なる雑草防除能力を有する。種々のジフエニルエーテルは、活性又は選択性の重複した又は補足的範囲を有し得、従つて単独組成物の使用による多種の雑草の防除するために組合せが有用であることができる。さらにこれまで除草剤として開示されたジフエニルエーテルは完全には効果的ではない。理想的な除草剤は全育成期に汎り、低割合の使用に単一施薬で選択的に雑草を防除しなければならない。種子、発芽中の種子、苗及び生育植物としてこれらを枯らすことによつてすべての普通の雑草は防除することができよう。同時に、施用される作物に植物毒性であるべきでなく、土壌を永久的に被毒しないよう分解又はさもなければ消散されるべきである。既知ジフエニルエーテル除草剤はこれらの理想に達せず、所望作物間の好ましくない植物のより選択的防除を示し、又は既知ジフエニルエーテルの活性を補う新しい除草剤の得られることが望まれる。」(同第三欄第三五行ないし第四欄第一三行)との技術的課題の下、前記本願発明の要旨にある構成を採択したものであること、

また、本願発明「の新規なジフエニルエーテルは発芽前(中略)及び発芽後(中略)の除草剤として有用である。(中略)本発明のジフエニルエーテルが有利に使用できる作物は、例えば棉、大豆、落花生、紅花、隠元豆、豌豆、ニンジン、とうもろこし、小麦及び他の禾本科植物に対する。本発明のジフエニルエーテル類は稲の雑草防除に有用である。(中略)本発明のジフエニルエーテル類は雑草の所望防除を与えるいかなる量も使用できる。本発明の望ましい除草剤の施用割合はエーカー当り約〇・一ないし約一二、より望ましくは約〇・二五ないし四ポンドのジフエニルエーテルであ」(同第七欄第四二行ないし第八欄第二一行)つて、同第五三欄第三〇行以下に実施例77として記載されているように、多数の農耕作物における本願発明のジフエニルエーテル類の選択的除草活性が優れているという効果を奏するものであること

が認められる。

要するに、本願発明は、優れた除草効果を奏するジフエニルエーテル化合物を得ることを目的とし、ジフエニルエーテル化合物の置換基について調査し、その置換基の種類、位置及び数を特定な組合せとすることにより、右目的を達成したものと認めることができる。

2(1) 原告は、本願発明と第一引用例記載の発明との間に審決認定の相違点が存することを認めた上、さらに、本願発明の化合物は、4、4´の位置に、それぞれCF3基、NO2基を必ず固定して含有することが特徴点の一つであるのに対し、第一引用例記載の化合物にあるAは、フエニル基又は審決が認定したような置換基を有する置換されたフエニル基であるが、本願発明の化合物のように、該フエニル基の4の位置に必ずNO2基が固定されているものではない点でも、両者は相違すると主張する。

しかし、成立に争いのない甲第四号証(第一引用例)によると、第一引用例には、第一引用例記載の化合物において、4´の位置にNO2基が存在する場合もあることが記載され、その例も複数示されている(例えば第二欄上から五番目、一四~一六番目の化合物)ことが認められる。そうすると、第一引用例記載の化合物においては、4、4´の位置にそれぞれCF3基、NO2基が必ず固定されるものではないが、4、4´の位置にそれぞれCF3基、NO2基が存在する場合の化合物も包含しているのであるから、4、4´の位置の基に関しては、本願発明の化合物と第一引用例記載の化合物との間で相違があるということはできない。

(2) 原告はまた、本願発明の化合物においては、Zが種々の置換基を有することも特徴点の一つであるのに対し、第一引用例記載の化合物においては、Zに相当する基が多数の置換基で置換されるものではない点でも、両者は相違すると主張する。

しかし、第一引用例には、第一引用例記載の化合物において本願発明のZに相当する基が、本願発明の化合物におけるものと同様に、ハロゲン原子、低級アルキル基、シアノ基等の置換基で置換される場合も包含していることが記載されていることは、原告が認める第一引用例の記載事項により明らかであり、前掲甲第四号証によると、第一引用例には、その例も掲げられている(例えば第二欄上から一四番目の化合物)ことが認められ、これらの場合には、本願発明の化合物のZの基と同一であるから、原告の右主張をもつて、両者に相違があるものということはできない。

(3) 原告は、本願発明と第二、第三引用例記載の発明との間に審決認定の相違点が存することを認めた上、さらに、第二、第三引用例記載の化合物においても、本願発明の化合物のように、Zに相当する基が多数の置換基で置換されるものではないのであり、この点においても、本願発明と第二、第三引用例記載の化合物とは相違すると主張する。

しかしながら、第二引用例記載の化合物で、Rがヒドロキシ基、C1~C3のアルコキシ基であるところのCORは、それぞれ本願発明の化合物におけるZがカルボキシ基、アルコキシ部分に3個まで炭素原子を有するカルバルコキシ基であるものに相当し、また、第三引用例記載の化合物で、RがC1~C3の飽和炭化水素基であるところのORは、本願発明の化合物におけるZがC1~C3のアルコキシ基であるものに相当するから、本願発明の化合物と第二引用例記載の化合物、第三引用例記載の化合物との間で原告主張の点における相違はないというべきである。

3(1) 原告は、本願発明の化合物のような、4と4´の位置にそれぞれCF3基とNO2基を有し、Zが多数の置換基で置換されるジニトロフエニルエーテル化合物の除草剤を得ることは容易に推考し得たところではなく、本願発明と第一ないし第三引用例記載の発明との間の相違点についてした審決の判断は誤りであると主張する。右主張は、原告が本訴で主張する相違点の看過、誤認が認められず、本願発明と第一ないし第三引用例記載の発明が審決認定の点においてのみ相違するとしても、該相違点に対する判断は誤りである旨の主張を包含するものと解されるので、以下この点について判断する。

(2) 成立に争いのない甲第七号証(昭和四四年特許出願公告第二三一一七号公報)によると、同公報の発明の詳細な説明の項第一欄第二一行ないし第二九行に、「従来からジフエニルエーテル系除草性化合物として、2、4―ジクロル―4´―ニトロジフエニルエーテル、2、4、6―トリクロル―4´―ニトロジフエニルエーテルなどが知られている。この種の化合物は極めて多数に存在し、他の系列の除草性化合物の場合と同様に置換基の数及び位置の差異によつて植物に対する作用性が大幅に変化するため、類似の化学構造をもつ化合物の間でも、それらの除草性を予測することは困難である。」と記載されていることが認められ、

成立に争いのない甲第八号証(昭和五六年特許出願公告第三〇三二一号公報)によると、同公報に、昭和四九年七月三日出願の発明の詳細な説明として、第二欄第二四行ないし第三三行に、「この系統の化合物は、その置換基の種類、数または位置などによる化学構造上の僅かな相違によつても、除草作用の有無、除草作用の大小、除草作用の発現の仕方、栽培植物に対する薬害の有無など予想外に異なる場合が多く、たとえ前記NIPまたはMOなどの類似化学構造を有する化合物でもあつても、はたしてそれが除草作用を有するか否かは、それを予測することは極めて困難であることは当該技術分野に於ては広く知られていることである。」と記載されていることが認められ、さらに、成立に争いのない甲第九号証(「化学工業」第二一巻第三号一九七〇年三月一日株式会社化学工業社発行)によると、同誌第一三〇頁末行ないし第一三一頁第二行に、「ジフエニルエーテル系の除草剤は、わが国で重要な位置をしめつつあるが、ほとんど大部分は、4´―ニトロ置換をもつものである。もうひとつのベンゼン環の置換基の影響は各社で検討されているが、ハロゲンについて遠山が報告した結果を第12表に示す。」と記載され、その第12表(第一二九頁)には、4´―ニトロジフエニルエーテル類の置換基と殺草力との関係が記載され、置換基であるハロゲンの種類、置換基の位置及び置換基の数によつて殺草力が種々変化することが示されていることが認められる。

右各記載によれば、本件出願(昭和四八年三月一四日出願、優先権主張日一九七二年三月一四日及び一九七三年二月一二日)当時においてはもちろん、本件出願後においても、ジフエニルエーテル系の除草剤については、その基本構造が同じであつても、置換基の種類、位置及び数の差異によつて、栽培植物、雑草に対する作用が様々にかつ大幅に変化し、類似の化学構造を持つた化合物でも、除草効果を予測するのは困難であつたことが認められる。

(3) 被告は、前記各公報等の記載では、除草性がないとし得るものは少なく、除草性があるとし得るものが多いから、ジフエニルエーテル化合物は、除草性を有することの可能性があることを示唆するものであるとはいえても、これらの記載によつて、右にみたような技術水準が存在したものということはできないと主張する。

しかしながら、右各書証は、そのほとんどが4―ニトロジフエニルエーテル化合物において他方のフエニルエーテル環に各種のハロゲンを含有するものであるが、このような類似した化合物の間でも、例えば、前掲甲第九号証によると、「化学工業」第二一巻三号の前掲第12表に4´―ニトロジフエニルエーテルの2位又は4位を塩素原子で置換したものは一〇〇ppm又はそれ以上でも無効、3位を塩素原子で置換したものは三〇ppmで有効、2位と4位を塩素原子で置換したものも三〇ppmで有効、3位と4位を塩素原子で置換したものは一〇〇ppm又はそれ以上でも無効、3位を塩素原子で置換し、4位をフツ素原子で置換したものは一〇ppmで有効、3位をフツ素原子で置換し、4位を塩素原子で置換したものは一〇〇ppm又はそれ以上でも無効、2位と4位と6位を塩素原子で置換したものは三〇ppmで有効、2位と4位を塩素原子で置換し、6位をフツ素原子で置換したものは三ppm又はそれ以下で有効であると例示されていることが認められるのであつて、ここで示されているように、ハロゲンの種類、その置換の位置、数の差異によつて殺草力に大きな相違があるものといえるのであるから、被告の右主張は理由がない。

(4) 右にみたところによると、本願発明の化合物と第一ないし第三引用例記載の化合物とが、共に除草剤に用いられる4―ニトロジフエニルエーテル系化合物に係るものであり、また、置換基に共通するものであるからといつて、このことから、直ちに本願発明における化合物を有効成分とする除草剤を得ることが、格別発明力を要しないということはできず、置換基の種類、位置及び数を選択し、組み合わせることによつて、格別に除草効果のある化合物を見いだせば、そこに進歩性があるものというべきである。

4 そこで、本願発明の効果についてみるに、前掲甲第二号証によると、本件出願公告公報の発明の詳細な説明の項に記載の実施例76(第四二欄第一〇行以下)では、本願発明のジフエニルエーテル化合物の実施例六二種について行われた除草活性の試験結果が示されており、その試験は、単子葉及び双子葉の各種の雑草を対象とし、一エーカー当たり一〇ポンド、四ポンド、二ポンドの施用量をもつて、播種後(植付け直後)の処理及び生育期(発芽の二週間後)の処理についてそれぞれ行われ、試験結果は枯れ死した植物のパーセント割合によつて示されていることが認められる。

この結果によれば、雑草の種類、施用量、処理時間により除草活性にばらつきのある化合物が多少見受けられるが、総体的には除草活性が優れているものと認めることができる。

また、成立に争いのない甲第一〇号証(コリン スイセンバンク作成の宣誓供述書)によると、同宣誓供述書には、本願発明の右実施例76においてなされたのと同様の手順の試験を、本願発明の化合物の実施例七種と第一ないし第三引用例記載の化合物各一種とについて行つた比較試験の結果が、本判決別紙の表一ないし四のとおり記載されており(前記本願発明の実施例76と対照すると、右甲第一〇号証の試験結果の数値も、枯れ死した植物のパーセント割合を表示するものと認められる。)、この試験結果においては、本願発明の化合物が第一ないし第三引用例記載の化合物に比較して格別に優れた除草効果を発揮したことが認められる。そして、前掲甲第四号証によると、第一引用例の第四欄第一七行ないし第二四行に、右試験に供された第一引用例記載の化合物は、第一引用例では特に重要とされている化合物であることについての記載があることが認められる。

したがつて、本願発明は、第一ないし第三引用例記載の発明に比して格段の効果を奏するものというべきである。

被告は、右試験結果では、散布量(施用量)に相違があるから、除草効果を的確に比較することはできない旨主張する。しかしながら、散布量が多いほど、除草効果がよくなるとみるべきところ、別紙の表一ないし四によると、本願発明の化合物を一エーカー当たり四ポンド及び二ポンド散布した場合の試験結果の方が、第一引用例記載の化合物を右の量よりも多い一エーカー当たり五ポンド散布した場合より極めて優れており、また、第三引用例記載の化合物についても同様のことがいえるし、第二引用例記載の化合物については、一エーカー当たり二ポンド散布した場合の試験結果を本願発明の化合物のそれと比べると、本願発明の化合物の試験結果の方が優れていることが明らかであるから、散布量に相違があることをもつてしても、前記認定に影響を及ぼすものではない。

被告はまた、右認定の効果は、審決時には明らかではなかつたものであるから、審決において、「本願発明の効果をみるに、各引用例との対比による効果の比較がなされていないから、本願発明は各引用例に比し格別に優れた効果を奏し得ているとすることができない。」と認定、判断したことには誤りはないと主張するが、右主張は、審決取消訴訟に至つて前掲甲第一〇号証のような比較試験の結果を援用して審決の認定、判断を攻撃する途を閉ざすことが相当であるというに等しく、理由がない。

5 以上みてきたところによると、本願発明の進歩性を否定した審決は、違法であつて、取消しを免れない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

有効成分として下記の一般式で示される化合物を含有せしめることを特徴とする除草剤。

一般式

<省略>

式中Xは水素原子、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、(C1~C4)アルキル基、又はシアノ基であり、Yは水素原子、ハロゲン原子であり、またZは水素原子、ヒドロキシ基、6個までの炭素原子を有するアルコキシ基(置換アルコキシ基を含む)、4個までの炭素原子を有するアルキル基、ハロゲン原子、アミノ基(置換アミノ基を含む)、シアノ基、カルボキシ基、アルコキシ部分に4個までの炭素原子を有するカルバルコキシ基、4個までの炭素原子を有するカルボキシアルキル基、6個までの炭素原子を有するカルバルコキシアルキル基、4個までの炭素原子を有するアルカノイルオキシ基、又は6個までの炭素原子を有するカルバモイルオキシ基であり、

前記Zで示される基において、置換アルコキシ基にはアルコキシ基の1個又は2個の水素がヒドロキシ基で置換され、又はアルコキシ基の1個の水素がハロゲン原子、(C1~C4)アルコキシ基、カルボキシ基、カルバルコキシ基(そのエステルアルコキシ基は炭素4個まで)、トリフルオロメチル基、エテニル基、エチニル基、ジアルキルアミノ基(アルキル基中の炭素は合計4個まで)あるいは(C1~C4)アルキルチオ基、(C1~C4)アルキルスルホニル基、エボキシ基、メチルカルボニル基、カルバモイル基、アルキル又はジアルキルカルバモイル基(アルキル置換基中の炭素は合計4個まで)で置換された(C1~C4)アルコキシ基が含まれ、置換アミノ基にはアミノ基の1個又は2個の水素がアルキル基又はヒドロキシ置換アルキル基(炭素は合計6個まで)、アルキルチオカルボニル基(アルキル基中の炭素は合計4個まで)、カルバルコキシ基(アルコキシ基中の炭素は4個まで)、カルバモイル基、アルキル又はジアルキルカルバモイル基(アルキル部分中の炭素は4個まで)、あるいはアルキルカルボニル基又はハロ置換アルキルカルボニル基(炭素合計4個まで)で置換された置換アミノ基が含まれ、あるいはモルホリノ基であつても良く、また

Zがカルボキシ基であるか又はカルボキシ基を含むときは遊離酸又は塩の形態であつても良く、また

X又はZに含まれるアルキル又はアルキレン部分は直鎖、分岐鎖であつても良い、

但し、前記一般式においてX又はYが塩素原子であり、且つY又はX及びZがいずれも水素原子である場合を除く。

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